2020年1月26日 公開
 
H13年式、走行距離13.5万㌔、NAの4WDのATのワゴンR「MC系」。

走行中、アクセルを一定に踏んでいるにも拘わらず突然エンジン回転が不安定になり、
速度も不安定に。数秒後、エンジンがストップ。

惰性で走行後、車両が停止。セルモーターは回るため、停止直後にATシフトをパーキングにし,
始動を試みるも全く掛からず。

そして5分間位待ってセルモーターを回すと、
普通に掛かり症状も改善され問題なく走行可能となる。

不調が出るタイミングとしては、10分位か、ある程度走行時間が長い方が出やすい。
速度も40㌔よりは60㌔と出ている方が出やすい。

記念すべきトラブルシュート1発目なので、色んな角度から探ってみたいと思います。

エンジンが調子よく回るには3つの原則があります。

1.良い圧縮。「エンジン本体」
2.良い火花。「点火装置」
3.良い混合気。「燃料系と吸気系」






























 
先ずは良い圧縮から考察してみます。

メーカーが公表している圧縮圧力の測定方法の原則として「完全暖気後」があります。
ラジエーターファンが回る位までエンジンを暖めないと正確に測定出来ない。
つまりエンジンの寒暖差で測定数値に差が出るという事になります。

それはなぜか?
エンジン内部に使われている部品達が摩擦熱によって膨張しているからです。
素材である鉄やアルミの生まれ持った特性「性質」であるため、
避けては通れない性質を踏まえた上でメーカーはエンジンを作っています。

自ずと膨張した状態の時が一番調子の良い状態になるように作られているため、
エンジンが冷えている時は各部のクリアランスが広いため、圧縮圧力が漏れてしまい、
暖気後の圧縮圧力よりも低くなる傾向にあると想像出来ます。

このことを踏まえて今回の症状を考えると、
エンジン本体のトラブルによるモノではないと判断出来ます。
よって確率は0%です。

ただ今回の車両は無知のVVTが付いているので、原因が複数あるならここも怪しいかも?
 
次に良い火花を考察します。

お客さまから話だけを聞いた時点では確率50%でしたが、
実際に症状を体験して確率は80%に上がりました。

ガス欠による症状、プラグの失火による症状とも違う、
燃料カット・点火カットを断続的に行った様な症状でした。


エンジン内部のクランクシャフト「ピストン」の動きを監視している角度センサー。

角度センサーから送られてくる情報を処理し最適な点火時期を
プログラムから導き出すコンピューター。

コンピュータから送られた点火信号に合わせ高電圧を発生させるイグニッションコイル。

コイルから放出された高電圧を火花に変換させるスパークプラグ。

この4つを更に考察します。
角度センサー。

クランク角センサー・カム角センサーと呼ばれるセンサーで、角度という名の通り、
クランクシャフト・カムシャフトの角度を監視「測定」しているセンサーです。

これはエンジン内部が回転運動している事を利用した、とても画期的な方法です。
クランクシャフト1回転を360度とし、この360度の中で、
ピストンがどの位置「角度」にいるのかを常にコンピューターに伝えています。

なぜ角度を伝える必要があるのかと言うと、
エンジンが調子よく回るには最適な点火時期があるからです。

いつか動画にして公開したいですが、今回は想像してみてください。
クランク同様に回転しているピストンが上昇中に燃焼「爆発」が起きるとどうなるでしょうか?
想像するに上昇を妨げる様な感じではないでしょうか!

では逆に下降が始まってから燃焼「爆発」が起きるとどうでしょう?
下降を助長する様なイメージが浮かびませんか!

上昇しきって下降が始まる瞬間に点火・燃焼そして爆発出来れば回転の慣性を更に助長し、より速くクランクシャフトが回るようになり・・・
と、エンジン内部の出来事はまたの機会に説明するとして、
角度を伝えるセンサーの重要性は理解してもらえたと思います。

このことを踏まえ今回の症状を考えると、かなり核心に迫った様な感じがします。
センサーがトラブってON&OFFを繰り返せば点火時期がズレたり戻ったりするため、アクセルを一定に踏んでいてもエンジン回転が不安定になります。

ピストン上昇中に点火していれば急激な減速を体感するかも知れません。
極めつけは5分位放置すると復活するところが、こういった電装部品がダメになった時の症状に類似しているところです。

センサーによってはフェイルセーフと呼ばれる応急処置的な作業を、
コンピュータが実行することもあるため、整備書は要確認です。

ちなみにこの型式の車両には、角度センサートラブルに対するフェイルセーフはありませんでした。
後、この型にはカム角センサーも存在していますが、
これはVVT「可変バルブシステム」の角度を監視しているモノなので、役割が違います。

ここはかなりの高確率です。
次にコンピュータですが、今まで一度もトラブルが起きた事がないため症状がわかりません。
そして自分の中では壊れるモノではないとおもっているため、確率は0%です。

先ほど角度センサーの中でも触れましたが点火時期を制御する役割と、
インジェクターが燃料を噴射する時期「時間」を制御する役割。
この2つがメインです。

点火時期・噴射時間共に、エンジン回転数やアクセル開度によって変化していくため、
その状態を各センサーから送られてくる信号で把握し、
最適な点火時期・噴射時間をコイル・インジェクターに伝えています。

この時期や時間は全て人間がプログラムしているモノなので、
純正の64馬力を上限としたプログラムだけでなく、
社外品「モンスタースポーツ等」のスポーツ走行用のプログラムも存在します。

身近なところではサブコンと呼ばれる自身で時期や時間を微調整出来るモノもあります。
これは純正のプログラムをベースに調整するため、純正マップが存在する回転数までは
調整可能ですが、マップが無い回転数を調整することは出来ません。

そんな色々を克服出来るのがフルコンと呼ばれるシステムです。
モーテックが有名ですが、純正のコンピューターマップをベースとせず、
自身がマップから作ることの出来る優れもので、
異常な速さを見せつける競技車両の全てはフルコン制御です。



次にイグニッションコイルです。
何かしらのトラブルで1気筒ダメになることはありますが、その時の独特の症状とは違う事と、
3本同時にダメになる事も考え辛いため、確率は0%です。

今回の車両のようなダイレクトイグニッションタイプではなく、
1つのイグニッションコイルで3本のプラグに電気を伝えるタイプであれば、
今回の症状での確率は50%でした。

最適な点火時期を考えると、イグニッションコイルにディストリビューターそしてプラグコードと、
コンピュータが今だ!と出した指令がスパークプラグに到達するまでの距離が、
ダイレクトイグニッションに比べると長いため、高回転でエンジンを回すほど、
点火が遅れるイメージがあります。

実際、ダートラ車を作る時に点火時期を変えながら試乗してみると、
一番調子よくエンジンが回った角度は純正値よりも進角した位置でした。

話が逸れてしまいましたが、ダイレクトイグニッションはプラグとイグニッションコイルが
合体しているので機械的な遅れがほとんどない素晴らしいシステムです。

H2年ですでに採用されていたSR-FOURって、やっぱ凄いですね!
次にスパークプラグです。
ダイレクトイグニッション同様、何かしらのトラブルが発生しても
3本同時に失火するのは考えづらいため、確率は0%です。

よくあるトラブルはカブリです。
インジェクターにトラブルがあるとカブることもありますし、エンジンの圧縮が低かったり
オーバーヒートによってクーラントが燃焼室内に浸入してもカブりやすくなります。

プラグには熱価と呼ばれる燃焼室内の温度に対する耐性を数字で表示されています。
旧規格のアルトにはBPR5EとDCPR7E...の2種類が使用されています。

2バルブのエンジンは5番、4バルブのエンジンは7番なのですが、
番号の高いプラグを使用している燃焼室ほど大量の混合気を吸い込み
燃焼&爆発を繰り返している事が何となく理解出来ます。

オクタン価の高いハイオクガソリンにブーストアップされた過給圧によって
半ば強制的に送り込まれる混合気が一気に燃焼&爆発している様を想像すれば、
純正の番号より上げたくなるのも理解出来ます。

でも面白いモノで番号を上げると高回転域でもうひと伸びを体感出来る代わりに
低中速域でのレスポンスが若干鈍くなったりもするのです。

プラグも奥が深いです。





 
いよいよ「良い混合気」を考察してみます。

良い火花の方でも触れましたが、全気筒同時失火は考えずらいため、
混合気「空燃比」とインジェクター単体によるトラブルの確率は0%です。

フューエルポンプのON・OFFによる燃圧の変化による症状とも考えられるので、
確率を20%残しておきます。

ピストンが下降する際に発生する負圧によってガソリンが吸い出され、
それと同時に周りの空気と混ざり合いながら混合気となり燃焼室内へと導かれる
キャブレターと違い、インジェクターはプログラムによって噴射する時期と時間が決まっています。

点火時期同様、噴射時期も角度センサーの信号を基に基本噴射時期が決まり、スロットル開度や温度センサーなどの情報によって噴射時間を調整しています。

ですので、角度センサーがON.OFFを繰り返せば、噴射もON・OFFするため
今回の症状の様な不安定な状態になると想像がつくため、確率は99%です。
 
今回の車両は診断機が使えたので答え合わせをしてみたいと思います。
ちなみに診断機による故障コードは検出されませんでした。

上から順に、エンジン回転数・車速・点火時期・スロットル開度・燃料噴射時間・
フューエルポンプのON.OFF・フューエルカットのON.OFF・VVTポジションです。

2番目の車速の山が下りだす直前までは、どのグラフも同じような波形ですが、
1番目のエンジン回転数が大きく乱れている列を下まで追うと、
4番目のスロットル開度が全開で6番のフューエルポンプがON、
更に7番目のフューエルカットもOFFの状態にもかかわらず、
3番目の点火時期と5番目の燃料噴射時期、そして8番のVVTが激しく乱れています。

最終的に角度センサーからの信号がなくなるためエンジンが停止するのですが、
VVTも影響を受けているのが分ります。

という事で答えはクランク角センサーでした。
確率20%だったフューエルポンプは正常でしたね。

それにしても、もの凄い診断機です。
が、旧規格には使えないので、私は相変わらず手を汚して原因を追究する毎日です。
でも昭和人間はこっちの方がやりがいがあって楽しい毎日でもあります。
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